受注残があるから安心、ではない|建設会社が受注残から「今期の利益着地」を読む方法

「今期は仕事が取れているので、大丈夫だと思います」
建設会社の社長と話をしていると、こういう話を聞くことがあります。
実際、受注残がしっかりあることは、会社にとって重要です。
これから先の仕事が確保されているわけですから、受注残が少ない会社より安心材料があるのは間違いありません。
ただし、経営管理という意味では、
「受注残がいくらあるか」だけでは、今期の利益がいくらになるのかは分かりません。
大切なのは、その受注残を、
受注残
↓
工事ごとの完成予定・進捗
↓
今期に実現する売上
↓
今期に実現する粗利
↓
今期の利益着地予測
へ変えていくことです。
今回は、受注残から「今期の利益」を読む方法を考えてみます。
受注残1億円でも、今期売上が1億円とは限らない
たとえば、9月末現在で次の3件の受注残があったとします。
| 工事 | 受注残 | 完成予定 | 見込粗利率 |
|---|---|---|---|
| A工事 | 3,000万円 | 11月 | 20% |
| B工事 | 4,000万円 | 翌年2月 | 15% |
| C工事 | 3,000万円 | 翌年6月 | 20% |
| 合計 | 1億円 |
受注残は1億円あります。
この数字だけを見ると、
「これだけ仕事があるなら、今期は大丈夫だろう」
と思うかもしれません。
しかし、仮に会社の決算が12月だとすると、事情が変わります。
A工事は11月完成予定なので、予定どおり進めば今期の売上・粗利に反映されるでしょう。
一方、B工事の完成予定は翌年2月、C工事は翌年6月です。
会社の売上計上基準や工事の進捗状況によって扱いは異なりますが、少なくとも、
「受注残1億円=今期売上1億円」
として考えることはできません。
受注残の金額を見るだけでなく、その工事の売上と粗利が、いつ会社の業績に反映されるのかを見る必要があります。
「確保している粗利」と「今期に実現する粗利」は同じではない
これまでGリバースでは、必要粗利を、
実現粗利
+確保粗利
+未確保粗利
に分けて考えてきました。
すでに売上計上され、それに対応する原価を差し引いて実現した粗利。
受注済みの工事から今後見込まれる確保粗利。
そして、目標達成のためには必要だけれど、まだ受注できていない未確保粗利です。
ここから、もう一段進めます。
受注済みの工事に粗利が見込まれているからといって、その粗利がすべて今期に実現するとは限りません。
先ほどの例なら、単純計算した見込粗利は、
A工事 3,000万円×20%=600万円
B工事 4,000万円×15%=600万円
C工事 3,000万円×20%=600万円
合計1,800万円です。
会社としては、受注済みの工事から1,800万円の粗利を確保していると見ることができます。
しかし、12月決算の会社で考えるなら、
この1,800万円のうち、今期に実現すると見込める粗利はいくらなのか。
ここまで見なければ、今期の利益着地は読めません。
工事台帳に「時間軸」を加える
そこで必要になるのが、工事台帳や受注残一覧です。
ただし、工事台帳を作ること自体が目的ではありません。
今期の利益を読むために必要なのは、それぞれの工事について、
- 受注金額
- 現在までの売上・原価
- 今後発生すると見込まれる原価
- 見込粗利
- 工事の進捗
- 完成予定時期
などを確認できる状態にすることです。
特に重要なのが、**完成予定と進捗という「時間軸」**です。
受注残一覧を金額だけで見ると、
「あと1億円の仕事を持っている」
という情報で終わります。
そこに完成予定や進捗を加えると、
「この1億円のうち、今期の業績に反映されるのはどの工事なのか」
という見方ができるようになります。
受注残が、単なる「仕事のストック」から、未来の利益を読むための情報に変わります。
今期の利益着地を組み立ててみる
もう少し具体的に考えてみましょう。
12月決算の建設会社で、9月までにすでに実現した粗利が5,000万円あったとします。
そして、受注済み工事を1件ずつ確認した結果、今後見込まれる確保粗利1,800万円のうち、今期中に実現すると見込まれる粗利が1,000万円だったとします。
すると、
9月までの実現粗利 5,000万円
+10~12月に実現する見込粗利 1,000万円
=今期の粗利着地見込 6,000万円
と考えることができます。
さらに、今期の人件費やその他の固定費などが5,500万円になる見込みなら、
粗利着地見込6,000万円
-人件費・その他固定費5,500万円
=利益着地見込500万円
というところまで見えてきます。
もちろん、実際には工事原価の増減や追加工事、値引き、工期変更などがあります。
ですから、500万円という数字がそのまま決算利益になると断定するものではありません。
大切なのは、決算が終わってから利益を知るのではなく、受注残と現在進行中の工事から、決算前に利益の着地点を予測することです。
受注残は毎月動く
利益着地予測は、一度作れば終わりではありません。
工事は予定どおり進むとは限りません。
たとえば、
「12月完成予定だった工事が1月へずれ込んだ」
「当初より外注費が増えそうだ」
「追加工事が発生した」
「思ったより早く工事が進んでいる」
といったことは実際に起こります。
そうなれば、今期に実現する売上も粗利も変わります。
だからこそ、工事台帳や受注残一覧を毎月更新し、
この工事はいくら粗利が出そうか
↓
いつその粗利が実現しそうか
↓
今期全体ではどこに着地しそうか
を見直します。
これが「利益着地予測表」の役割です。
立派な表を作ることが目的ではありません。
社長が今期の着地点を早い段階で知り、次の経営判断ができること。
そのために必要な情報を、工事台帳や受注残一覧から集めるという順番です。
試算表だけでは「これから完成する工事」は見えにくい
試算表はもちろん重要です。
9月までにどれだけ売上が計上され、どれだけ利益が出ているのかを確認できます。
ただし、それは基本的には9月までに会計へ反映された数字です。
一方、社長が知りたいのは、
「このままいけば12月の決算はどうなるのか」
ではないでしょうか。
そのためには、試算表に加えて、
現在進行中の工事
+受注残
+完成予定
+工事進捗
+見込粗利
という、会計にまだ十分反映されていない未来の情報を見る必要があります。
つまり、
試算表で現在までを確認し、工事情報からその先を予測する。
この二つをつなぐことで、初めて今期の利益着地が見えてきます。
利益着地が早く分かると、経営判断も早くなる
たとえば、12月決算の会社で9月の時点に、
「今の受注残と工事進捗なら、今期は目標利益を達成できそうだ」
と分かる場合があります。
逆に、
「受注残は多いけれど、今期に完成する工事が少なく、このままでは必要粗利に届かない」
と分かる場合もあります。
後者なら、決算が終わってから、
「思ったほど利益が出ませんでした」
と確認するのでは遅いでしょう。
9月の段階で分かれば、
残り3か月で何を受注するのか。
どの工事の採算を見直すのか。
今期にできることと、来期へ向けて取り組むことを分けるのか。
経営判断を前倒しできます。
これまでGリバースでは、3年後の会社像から必要粗利を逆算し、それを今年、今月の数字へ落としてきました。
今回そこに、
「現在持っている工事から、今期の着地点を読む」
という視点が加わります。
未来から必要な数字を逆算するだけではなく、現在の工事から未来の数字を予測する。
つまり、
「こうなりたい会社」から逆算した必要粗利
と、
「現在の受注・工事の状況から、このままいけばこうなる」と予測した着地粗利
の両方を見るということです。
そして、この二つに差があるなら、
その差をどう埋めるのかが、今やるべき経営課題になります。
未来から現在へ逆算する。
同時に、現在から近い未来を予測する。
この二つを突き合わせることで、3年後の計画と今月の経営が一本につながってきます。
最後に
これは建設業だけの話ではありません。
経営では、
「今までどうだったか」
を正確に把握することと同時に、
「この先どうなりそうか」
をできるだけ早く予測することが重要です。
建設業の場合、その未来を読む材料が、工事台帳や受注残、工事進捗の中にあります。
受注残がいくらあるかを見るだけで終わらせず、
その受注残から、いつ、いくらの売上と粗利が実現するのか。
その結果、今期の利益はいくらになりそうなのか。
ここまで見えるようになると、受注残の意味が変わってきます。
ただし、ここで次の問題が出てきます。
「今期は利益が出る」と分かったとして、本当に会社のお金は足りるのでしょうか。
利益が出る工事であっても、材料代や外注費を先に払い、売上代金の入金が数か月後であれば、その間は会社が資金を負担することになります。
つまり、
利益の着地が見えることと、資金の着地が見えることは別です。
次回予告
次回は、
「利益が出る工事なのに、なぜ会社のお金が減るのか」
をテーマに、工事の利益と実際のお金の動きの違いについて考えてみます。

昭和63年、中央大学商学部卒。
その後、大手ゼネコン勤務等を経て、平成7年、石田雄二税理士事務所開業。
「会計事務所は最も身近な経営スクール」をモットーとし、マネジメントゲームを用いた経営指導は県外にまで及ぶ。
広島県創業サポーター。広島県事業引継ぎ支援センター登録専門家。