金融機関でさえ、建設会社の本当の経営状態を読み切れない

前回の記事では、売上目標や利益率をExcelでイメージするだけでは不十分であり、会社が絶対に確保しなければならない「必達粗利」を定め、その目標を工事ごとの管理へ落とし込む必要があるとお伝えしました。
では、工事ごとの利益が分かれば、それで建設会社の経営状態を正しく説明できるのでしょうか。
残念ながら、そう単純ではありません。
建設業には、もう一つ大きな難しさがあります。
それは、利益の発生と、お金の出入りの時期が大きく食い違うことです。
しかも、その食い違いは社長だけでなく、会社を評価する金融機関にとっても、非常に分かりにくいものです。
決算書が黒字でも、資金繰りが良いとは限らない
建設業では、決算書上は利益が出ているのに、手元資金が不足している会社があります。
反対に、預金残高は一時的に多いのに、実際には安心できない会社もあります。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
例えば、工事代金の入金より先に、
- 材料代
- 外注費
- 現場人件費
- 重機や車両の費用
- 現場経費
などの支払いが発生します。
工事そのものでは利益が見込まれていても、代金を回収するまでの間は、会社が資金を立て替えなければなりません。
請負金額が大きくなり、工期が長くなるほど、その立替額も大きくなります。
つまり、成長して受注が増えたことが、かえって一時的な資金不足を生む場合があるのです。
これが、建設業における資金繰りの難しさです。
金融機関は決算書を見れば、すべて分かるのか
金融機関は、融資審査の専門家です。
決算書や試算表を分析し、利益、自己資本、借入金、返済能力などを確認します。
しかし、その金融機関であっても、建設会社の決算書と通常の月次試算表だけで、実際の経営状態を完全に読み切ることは容易ではありません。
建設業では、
- 未成工事支出金の中身
- 完成工事未収入金の回収時期
- 工事代金の先行支払い
- 工事ごとの進捗状況
- 受注残高
- 今後の着工・完成予定
- 請求時期と入金時期
- 追加工事や原価増加の可能性
などを確認しなければ、将来の利益と資金の流れが見えないからです。
決算書に計上された未成工事支出金が、将来十分な利益を生む工事に対応したものなのか。
完成工事未収入金は、予定どおり回収できるものなのか。
受注残は豊富でも、採算の悪い工事ばかりではないか。
これらは、決算書の金額だけを見ても判断できません。
まして月次試算表の完成が遅く、工事台帳や受注残の情報とも結びついていなければ、金融機関が慎重になるのは当然です。
銀行が分かってくれないのではない
融資の相談をした際に、
「銀行はうちの会社のことを分かってくれない」
と感じる経営者もいると思います。
しかし、私は必ずしも金融機関だけに問題があるとは考えていません。
会社側が、金融機関に判断してもらうための情報を十分に示せていないことも多いからです。
決算書を提出する。
試算表を提出する。
受注一覧を提出する。
それぞれの資料を個別に渡しても、それだけでは会社の未来は伝わりません。
金融機関が本当に知りたいのは、
- 受注済み工事から、今後いくら売上が計上されるのか
- その工事から、いくら粗利が残るのか
- 売上代金は、いつ回収されるのか
- それまでに、いくらの先行支払いが発生するのか
- 半年後の預金残高はいくらになるのか
- 資金が不足するなら、いつ、いくら必要になるのか
という一連の見通しです。
この流れを会社自身が説明できなければ、金融機関は安全側に判断せざるを得ません。
建設業の資金繰り表は、通帳残高の延長ではない
「資金繰りが重要です」と言うだけなら、目新しい話ではありません。
多くの経営者も、その重要性は十分に理解しています。
問題は、建設業の資金繰り表が、単に前月の預金残高に入金予定と支払予定を足し引きすれば完成するものではないことです。
本当に必要なのは、
工事情報と連動した資金繰り管理です。
受注した工事について、
- いつ着工するのか
- いつ原価が発生するのか
- いつ出来高を請求できるのか
- いつ入金されるのか
- 完成時にいくら粗利が残るのか
を見通す必要があります。
したがって、建設業の資金繰りを正しく読むためには、
工事台帳、受注残管理、利益予測、入出金予定を一つにつなげなければなりません。
資金繰り表だけを単独で作っても、根拠となる工事情報が不十分であれば、精度の高い予測にはならないのです。
資金調達力とは、借りる技術だけではない
資金調達力というと、
- どの金融機関へ申し込むか
- どの融資制度を使うか
- 返済期間を何年にするか
- 金利をどう交渉するか
といった「借り方の技術」を思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それらも重要です。
しかし、それ以前に必要なのは、
自社の経営状態と将来の資金需要を、数字で説明できることです。
工事別の採算が分かる。
受注残から将来売上を説明できる。
半年後の資金残を予測できる。
必要資金の金額と時期を、融資を申し込む前に示すことができる。
こうした会社は、金融機関にとっても支援方針を検討しやすい会社です。
融資の実行を保証することはできません。
しかし、金融機関が判断できる情報を継続的に提示できる管理体制を作ることはできます。
私は、それが建設会社の資金調達力を高める本当の出発点だと考えています。
建設業に必要なのは「金融機関に伝わる財務管理体制」
私が考える建設業の財務管理は、資金繰り表を一枚作って終わるものではありません。
- 会社として必要な粗利を定める
- 工事ごとの予定利益と実績を管理する
- 受注残から今後の売上と粗利を予測する
- 工事ごとの請求・入金・支払い予定を整理する
- 半年後の資金残を読む
- その見通しを金融機関と共有する
ここまでを一つの流れとして機能させることです。
経営者の頭の中にある現場情報。
工事台帳にある採算情報。
会計事務所が作る試算表。
資金繰り表。
金融機関へ提出する説明資料。
これらがばらばらに存在している限り、会社の経営実態は正しく伝わりません。
反対に、これらを一つにつなぐことができれば、社内の経営判断にも、金融機関との対話にも使える財務管理体制になります。
それは単なる資料作りではありません。
会社自身が、自社の未来を数字で説明できる仕組みを持つことです。
次回予告
では、金融機関に正しく経営状態を伝えるためには、具体的にどのような数字と資料を整えておく必要があるのでしょうか。
決算書と試算表だけでは足りません。
次回は、
「銀行に説明できる建設会社が、毎月管理している5つの数字」
をテーマに、金融機関との対話力を高める財務管理体制の中身についてお話しします。
※本記事は主に元請建設会社を想定して書いていますが、「利益予測と資金繰り予測をつなぎ、金融機関へ説明できる状態を作る」という考え方は、製造業など資金の先行負担が大きい業種にも応用できます。

昭和63年、中央大学商学部卒。
その後、大手ゼネコン勤務等を経て、平成7年、石田雄二税理士事務所開業。
「会計事務所は最も身近な経営スクール」をモットーとし、マネジメントゲームを用いた経営指導は県外にまで及ぶ。
広島県創業サポーター。広島県事業引継ぎ支援センター登録専門家。