建設業で赤字企業であっても税務調査は来るの?建設業は調査対象になりやすい

投稿日時

2025.10.04

赤字であれば、税務調査は来ないのでは?という話がありましたが、経験上、そんなことはありません。税務調査では赤字企業であっても調査の対象になる可能性はあります。建設業は業種の特性上、税務当局から注目されやすい業種でもあります。事例なども入れて詳しく解説します。

国税庁の報道発表資料では、不正発見割合の高い10業種(法人税)として、一般土木建築工事、職別土木建築工事、土木工事として3つもランクインしています。建設業は税務調査の入る可能性の高い業種と言っても過言ではありません。

国税庁 令和2事務年度 法人税等の調査事績の概要
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2021/hojin_chosa/pdf/01.pdf目次

  1. 税務調査とは
  2. 赤字企業でも調査対象になるの?
  3. 建設業の場合
  4. 赤字で対象になりやすい建設業者
  5. 報道など公表されている裁決・審判事例など
  6. 対象にならないようにする対策

税務調査とは

税務調査とは、税務署が申告内容を確認するための調査です。法人税や所得税、消費税などの申告が適正かどうかをチェックするのが目的です。

建設業は現金取引や外注費・材料費の計上が多いために申告内容の正確性を確認するために調査対象となりやすい業種のひとつです。

任意調査の結果、申告漏れや誤りが指摘された場合、追徴課税(追加で納める税金)や加算税(ペナルティとしての税金)、延滞税などが課されます。

赤字企業でも調査対象になるの?

「赤字だから税務調査は来ない」と思われがちですが、実際には赤字企業も調査対象になります。赤字とか黒字は関係ありません

消費税の還付申告がある場合

赤字であっても、仕入れ税額控除により還付を受けている場合は調査が入りやすくなります。

売上の消費税より仕入・経費の消費税が多い場合は納める税金はゼロで、「還付」を受けられる場合があるためです。

赤字額が大きすぎる場合

不自然に赤字が続くと、経費の水増しや売上の除外が疑われるために調査対象となることがあります。

また、赤字(欠損金)は、翌期以降の黒字と相殺して将来の法人税を減らす効果(繰越控除)があります。この繰越欠損金が過大に計上されていないか、その金額の根拠となる過去の経費が正しく計上されていたかを確認します。

不正な経費計上

赤字を装うために、個人的な支出を経費に混ぜていないか、たとえば、役員報酬や社用車としていない私的な自動車費用、家族旅行費用などです。架空の経費や水増し請求がないかをチェックします。これらの不正が見つかれば、重加算税の対象となります。

加算税とは、税額を算出で必要な数字や情報を隠ぺい・仮装して不正を行った場合に課せられる附帯税のことです。

役員報酬や貸付金の扱い

赤字であっても役員に高額な報酬が支払われていたり、会社から社長への貸付金が多い場合は調査対象になりやすいです。

建設業の場合

国税庁の調査結果からも建設業は税務調査の対象になりやすい業種とされています。理由を解説します。

現金取引が多い

建設業では材料費や外注費の一部が現金でやりとりされることがあり、売上や経費の記録漏れが疑われやすい。

下請・外注の重層構造

請負契約や下請けに出した経費計上が複雑なために架空経費や水増し経費を疑われることがある。

また、個人事業主である一人親方などに支払う報酬(工賃)は、本来、源泉徴収の対象となるケースがあります。この源泉徴収漏れや納付漏れがないかを必ずチェックされます。

工事進行基準・完成基準の判定

売上計上時期の誤りが生じやすく、赤字と黒字の判定に誤りがある場合があるために赤字であっても「経費の妥当性」や「売上の計上漏れ」が調査で重点的に確認されることがあります。

長期にわたる工事の場合、売上と原価の計上基準(工事進行基準・工事完成基準)が正しく適用されているかも確認されます。計上時期を意図的に操作し、課税を不当に繰り延べていないかをチェックします。

赤字で対象になりやすい建設業者

  • 赤字でも税務調査の対象になりやすい建設業者は次のような場合です。
    • 数年連続で赤字申告をしている建設業者
    • 赤字でも多額の消費税還付を受けている業者
    • 外注費や材料費が売上に比べて不自然に大きい業者
    • 役員報酬や交際費が高額で、赤字との整合性が取れない業者
    • 現金取引が多く帳簿管理がずさんな業者

このような場合、赤字であっても「不自然な経理処理があるのでは」と疑われ、調査が行われる可能性があります。

報道など公表されている裁決・審判事例など

大手ゼネコン社の事例

元社員が下請け会社に工事費を水増し請求させ、裏金(キックバック)として受け取っていた。会社は水増し分を経費計上。数億円の追徴税額となった。

中小建設会社の事例

外注費を水増しし、社長や役員が個人的な飲食代や旅行代に流用していた(私的流用)。数千万円(重加算税含む)

個人内装工事の事例

専属で働く職人への支払いを「外注費」として処理し、源泉徴収を行っていなかった。数百万円(源泉所得税・消費税)

対象にならないようにする対策

  • 赤字企業でも次のような対策を取ることで税務調査のリスクを下げることができます。
    • 帳簿や領収書の整備:現金取引など証憑を保管し帳簿と突合できるようにしておく。
    • 経費計上の妥当性を確保:私的な支出を会社経費に入れない。特に交際費や車両費は注意。
    • 売上計上の適正化:工事進行基準・完成基準を正しく適用し、売上の計上漏れを防ぐ。
    • 資金繰りと整合性を確認:資金の流れと帳簿の内容に不一致がないようにする。