建設業の税務調査|工事の竣工日はいつ?売上計上を巡る税務署との攻防

「この工事は、決算日にはまだ完成していませんでした」
建設会社の社長が、税務調査官にそう説明する。
ところが調査官は、下請業者の請求書や工事記録を示しながら、こう尋ねます。
「でも、最後の工事は決算前に終わっていますよね。この工事は、いつ引き渡されたのですか?」
ここから、工事の完成時期を巡る議論が始まります。
建設業の税務調査では、工事の竣工日や引渡日を巡る認識の違いが、思いがけず大きな税務問題に発展することがあります。
私は大手ゼネコンでの勤務経験を経て税理士となり、30年以上にわたり建設会社の税務・財務支援に携わってきました。
実際の税務調査でも、工事の完成時期や売上計上を巡り、1,000万円単位の金額が問題になった経験があります。
今回は、建設業の税務調査で繰り返し問題となる、工事の竣工日と売上計上時期について考えてみたいと思います。
1.工事の竣工日は、何をもって判断するのか
建設工事には、一般的に工事が完成したことを示す何らかの記録が残ります。
例えば、建物の鍵の引渡し、工事完了報告書、発注者による検収書、引渡確認書などです。
こうした書類が整備されていれば、工事の完成・引渡しの時期を比較的明確に説明できます。
しかし、すべての建設会社で、これらの書類が十分に整備されているとは限りません。
特に中小建設会社では、長年の取引関係や現場の慣習によって、工事の完了や引渡しが口頭で確認されていることもあります。
また、実質的な工事は終わっているものの、一部の手直しや追加工事が残っている場合もあるでしょう。
こうした場合、何をもって工事が完成し、引渡しが行われたと判断するのか。
この問題が、税務調査で大きな争点になることがあります。
2.税務署は、すでに「外堀」を埋めていることがある
税務調査官は、単に会社が作成した工事台帳や売上伝票だけを見ているわけではありません。
例えば、次のような資料から工事の実態を確認することがあります。
- 下請業者が最後に施工した日
- 協力会社から提出された請求書の日付や工事内容
- 工事日報や現場写真
- 発注者との工事完了・検収に関する記録
- 最終の工事代金請求書や入金記録
これらを突き合わせることで、会社が主張する完成時期と、実際の施工状況との間に矛盾がないかを確認します。
会社側が「まだ工事は完成していなかった」と説明しても、調査官がそれに反する複数の資料を把握していることがあります。
いわば、すでに外堀が埋まっている状態です。
もちろん、下請業者の最終施工日や請求書の日付だけで、税務上の引渡日が確定するわけではありません。
しかし、それらが会社側の説明と食い違っていれば、調査官から厳しい質問を受けることになります。
3.社長の説明と、客観的な証拠が食い違う
「確かに下請工事は終わっていました。でも、まだ手直しが残っていたんです」
「発注者から正式に検収を受けたのは翌月です」
「現場の仕事が終わったからといって、すぐに竣工というわけではありません」
こうした説明には、実際の工事現場の事情が反映されていることもあります。
一方、調査官は客観的な資料に基づいて事実関係を確認しようとします。
そこで問題になるのが、会社側の説明を裏付ける証拠があるかどうかです。
例えば、決算日以降も手直し工事が続いていたというのであれば、その作業内容や施工日、発注者とのやり取りなどが重要になります。
単に「まだ完成していなかったはずだ」という説明だけでは、説得力に欠ける場合があります。
その結果、双方の主張がかみ合わず、議論が平行線になることもあります。
私が税務調査の現場で重視しているのは、こうした議論を感情的な押し問答にしないことです。
会社側の事情を丁寧に確認し、客観的な資料と税務上の判断基準に照らして整理する必要があります。
4.竣工日が違えば、売上も工事原価も変わる
建設業では、工事の売上と、それに対応する工事原価の計上時期が極めて重要です。
例えば、決算日が3月31日の建設会社で、請負金額5,000万円、工事原価4,000万円の工事があったとします。
会社は、この工事を4月完成として翌期の売上に計上し、工事原価も未成工事支出金として処理していました。
ところが税務調査で、3月中に完成・引渡しが行われていたと認定された場合、どうなるでしょうか。
完成引渡基準が適用される工事であれば、売上5,000万円と対応する原価4,000万円を当期に計上することとなり、差額の1,000万円が当期の利益に影響します。
もちろん、実際には他の会計処理や工事の状況も確認する必要があります。
しかし、工事の完成・引渡しの時期が一つの事業年度をまたぐだけで、これほど大きな金額が問題になり得るのです。
建設業は、売上と原価の対応関係が特に重要な業種です。
だからこそ、工事の完成時期についての認識の違いが、税務調査では重大な問題につながります。
5.税務署の認定が、必ずしも正しいとは限らない
ここで誤解していただきたくないことがあります。
税務署が「この工事は決算前に完成していた」と指摘したからといって、その判断が必ず正しいとは限りません。
例えば、下請業者の施工が終了していても、元請会社としての工事が完了していない場合があります。
また、発注者による検査や引渡しが、契約上重要な意味を持つ場合もあります。
税務上の収益計上時期は、単に最後の職人が現場から引き揚げた日だけで決まるものではありません。
工事の内容、契約条件、検収や引渡しの実態などを総合的に判断する必要があります。
そのため、税務調査官の指摘に対しても、合理的な根拠があれば会社側の見解を主張すべきです。
一方で、客観的な証拠から明らかに誤った処理が認められる場合には、それを無理に正当化することも適切ではありません。
認めるべきものは認め、主張すべきものは主張する。
私は、これが税務調査対応の基本だと考えています。
6.税務調査で困らないために、建設会社がしておくべきこと
工事の完成・引渡しの時期について、税務調査のたびに議論することは、会社にとっても大きな負担です。
そのため、日頃から工事ごとの記録を整備しておくことが重要です。
工事台帳に完成日や引渡日を記録するだけでなく、その根拠となる工事完了報告書、検収書、発注者とのやり取りなどを残しておく。
手直し工事や追加工事が発生した場合には、その内容や実施時期も記録する。
そして決算時には、完成工事と未成工事の区分を、現場の責任者と経理担当者が確認する。
こうした基本的な管理ができていれば、税務調査における説明も容易になります。
また、工事ごとの売上と原価の対応関係が明確になることで、工事別の粗利益管理の精度向上にもつながります。
これは、税務調査対策だけでなく、建設会社の経営管理そのものを改善する取り組みでもあります。
7.建設業の税務調査には、現場と会計の両方を理解する視点が必要
建設業の税務調査では、帳簿や決算書だけを確認しても、問題の本質が見えないことがあります。
工事がどのような工程で進められたのか。
どの段階で発注者に引き渡されたのか。
工事原価は、どの工事に対応しているのか。
こうした現場の実態を理解したうえで、税務上の判断を行う必要があります。
工事の竣工日を巡る問題は、一見すると基本的な論点です。
しかし、基本的な問題だからこそ、正確な事実認識と客観的な証拠の整備が求められます。
そして、その基本が十分にできていない建設会社も、決して珍しくありません。
税務調査が始まってから慌てて説明を考えるのではなく、日頃から工事の実態と会計処理を一致させておくこと。
それが、建設会社にとって最も確実な税務調査対策の一つだと考えています。
建設業の税務調査でお困りの経営者の方へ
石田雄二税理士事務所では、建設業に特有の工事原価管理や会計処理を踏まえ、税務調査への対応を支援しています。
工事の売上計上時期、未成工事支出金、外注費の取扱いなどについて、税務署から指摘を受けている場合もご相談ください。
顧問税理士がいらっしゃる場合でも、建設業の税務調査について専門的な立場からサポートいたします。

昭和63年、中央大学商学部卒。
その後、大手ゼネコン勤務等を経て、平成7年、石田雄二税理士事務所開業。
「会計事務所は最も身近な経営スクール」をモットーとし、マネジメントゲームを用いた経営指導は県外にまで及ぶ。
広島県創業サポーター。広島県事業引継ぎ支援センター登録専門家。